2020年8月6日(木)
犬の病気(腫瘍:肛門嚢アポクリン腺癌①②)
約2ヶ月間、肛門嚢炎とし て治療を続けて改善がなく、セカンドオピニオンで受診されたワンちゃんです。(①)
肛門からの出血があり、触診、直腸診で、肛門2時〜7時の方向に不整で長く硬い腫瘤があり、腹部超音波検査で腰下リンパ節が1.5cmに腫大して転移の可能性があり、肺などへの遠隔転移は認られませんでした。細胞診から、アポクリン腺癌の疑いがあり、飼い主さんには、外科的に肛門腫瘍の拡大切除と、腰下リンパ節は摘出もしくは、術後に抗癌剤療法をお勧めして、希望されたので、肛門腫瘤摘出を実施しました。
病理診断結果で、アポクリン腺癌で脈管内浸潤は認められず、細胞レベルでは完全切除されていますが、再発転移率高い悪性腫瘍なので、手術部位再発防止の為、アポクリン腺癌の術後は温熱療法(ハイパーサーミア)と、転移した腰下リンパ節に対して、抗癌剤を使って6ヶ月以上経過しますが、腰下リンパ節の大きさは変化せず、肺転移もなく、お尻の腫瘍の再発も無く、排便も正常に行っています。
http://www.harue-vet.com/news/?p=176
(メラノーマの症例で温熱療法を紹介しています。炎症性乳癌、ワクチン誘発性肉腫も後日紹介いたします。)
この子は少し排便する時間が長いとのことで来院した15歳の雄のミニチュアダックスさんです。(②)直腸診で右肛門嚢の位置に3.0×3.0cm大の皮下腫瘤を確認、細胞診検査で淡い紫色の細胞質を有する類円形細胞を集塊、一部ロゼッタ状構造(腺癌細胞の所見)も認められました。
血液検査では異常なく、腹部超音波検査においては所属リンパ節(腰下リンパ節2.0×2.5cm大)の転移所見を確認しました。胸部レントゲン検査では、肺への遠隔転移は認められません。
以上の所見から、腰下リンパ節転移を伴う肛門嚢アポクリン腺癌の可能性と診断しました。病気進行を止める目的もありますが、これら病変の進行によって排便困難を起こしたり、高カルシウム血症を招くことを阻止するために肛門嚢腫瘤摘出+腰下リンパ節摘出をお勧めして実施しました。
病理検査は、肛門嚢アポクリン腺癌、腰下リンパ節転移を伴う結果でした。
術後、排便は正常になり、食欲もあり、元気に過ごしています。
術後は再発防止のため、抗がん剤、温熱療法を実施する予定です。
「肛門嚢アポクリン腺癌」とは、、、、、、、雌に多く発生し、進行が速い悪性腫瘍です。肛門嚢に発生するので皮膚表面には存在せず、深部に位置していますので、腫瘍が大きくなった場合や、骨盤前の腰下リンパ節に転移した時などは、便が出づらくなることが多く、飼い主さんがそれを確認して来院するケースもあります。高カルシウム血症を随伴することが多く、多飲多尿を訴え来院されて、血液検査、触診、直腸診でこの腫瘍を偶然みつけたケースもありました。
15年前に秋田犬の子でその子の頭部と同等ぐらい巨大なアポクリン腺癌ができて排便ができず、来院したワンちゃんがいました。術中に腫瘍が足の坐骨神経の際まで体深部に進行していることを確認し、腫瘍摘出後、会陰ヘルニアと同様な状態で腹腔内の臓器が露出し、その整復縫合処置が大掛かりで、手術時間が6~7時間要しましたが、その後、排便も通常通り行えるようになりました。とても元気に通常の生活をその後3年間送り、再発転移なく、別の病気で亡くなりました。
アポクリン腺癌に患ったワンちゃんを大学動物病院の研修中に、多数遭遇してきましたが、腺癌が進行したワンちゃんでも、QOL(生活の質)を保つため=排便困難、疼痛、腎不全の予防、改善のため、外科療法、抗がん剤療法、放射線療法等々様々な治療で、良好なQOLを得られていました。