2021年9月17日(金)
犬、猫の病気(泌尿器;腎不全)
血液検査のみで、「腎不全」と診断して、
「腎不全の治療を行う=点滴、腎臓食、腎不全の治療薬を服用する」ということは、全ての腎不全の患者さんに適用ではない場合が多いです。
血液検査で腎臓の数字が高く、ペットの状態が悪いからと言って、助からないとは限りません。
また、腎不全の治療に点滴だけとか、食事だけとかは対症療法で、原因に対しての治療ではない場合もあります。
実は、腎不全は
①腎前性(血液の巡りが悪い)
②腎性 (腎臓の働きが悪い)
③腎後性(尿の排出経路が悪い)
の大まかに3つに分類されます。各種、治療法も異なります。
その為、血液検査以外の検査(尿検査、画像(レントゲン.超音波.尿路造影)、生検等)も一緒に行って診断します。
『③腎後性腎不全』は、
腎臓以降の尿路{ ⇒ 尿管(青)⇒ 膀胱(赤)⇒ 尿道(緑) }に障害が起こり、尿排出ができなくて起こります。
今回は『③腎後性腎不全』の症例をいくつかご紹介いたします。
【緑(膀胱~出口)の障害】
いこちゃんは、排尿なく、よだれが大量に出て、呼吸が荒く、横になったままで来院しました。
完全に尿が出ている様子が無く、尿道から、尿を出すよう処置を試みましたが、いこちゃん自身がペニスの先端を舐めて尿道が損傷して、カテーテルが挿入できませんでした。
検査中に呼吸が停止して、呼吸の補助に気管キューブで気道を確保し、その後心電図を装着して、重度の不整脈(期外収縮~心室細動、心停止)を確認しました。排尿障害から、急性腎不全(BUN>140.0 CRE>23.0)高カリウム血症(>12.0)で、心臓の伝導異常をおこしていました。
急速静脈点滴、重炭酸Na(メイロン)、ブドウ糖-インシュリン、利尿剤、カルシウム製剤を注射して高カリウム血症の治療を行いました。尿道が損傷して完全閉塞していた為、一時的に腹壁から膀胱に直接排尿できるようカテーテルを留置し、数時間後にはカリウム値も6.8(正常は5.0前後)まで改善し意識も回復しました。
その翌日、尿道狭窄部位まで尿道を摘出して、出口を女の子のような形にする手術(下の白 〇)(会陰尿道造瘻術)を行い、排尿も通常通りできるようになり、腎不全も改善しました。
いこちゃんのケースはよく見かける尿道閉塞の腎不全です。
7年後の現在も正常に排尿できて、順調です。現在は便秘で定期健診で受診中です。
【赤(膀胱)の障害】
ねねちゃんは、腰仙椎狭窄症(馬尾症候群)という脊椎神経が圧迫されて、後ろ足のふらつき、腰痛、排尿障害がおこる疾患です。下の図の黄色〇の部位の骨の継ぎ目のずれ、圧迫が仙髄、それよりも末梢領域の神経障害がおこり、膀胱排尿筋が弛緩して、自力での排尿がなかなかできなくなります。長期間続くと、腎臓に負担がかかって、腎不全も起こす場合もあります。
ねねちゃんも、腰仙椎狭窄症を長年患って、膀胱が伸びきって排尿がなかなかできず、中度の腎不全を患っていたので、排尿筋の緊張を高める薬(副交感神経作動薬)で排尿を促す治療を行っています。
【青(尿管)の障害】
あおちゃんは、嘔吐、食欲不振、活力低下で来院しました。その時、排尿は正常にありました。
腹部レントゲン検査で、腎臓、尿管結石(下図の白〇)4個を確認、腹部超音波検査で、左尿管結石と腎盂拡張を確認しました。血液検査は、BUN 119.8 CRE4.92と腎機能が悪くなっていました。
左尿管結石閉塞での急性腎不全と診断し、結石除去手術を行いました。術後腎不全も改善しました。(BUN 43.4 CRE 2.14)
現在は、状態も改善して元気に過ごしています。
【青(尿管)の障害】
メルちゃん2歳のネコちゃんです。
この子も左尿管結石が閉塞して急性腎不全を起こしていた子です。
尿管切開手術で結石除去を行いました。
尿管が途中で狭窄している場合は、尿管膀胱吻合術を行う場合があります。
http://www.harue-vet.com/news/?p=1090
尿管結石摘出手術動画
①尿管切開IMG-4728 4
②尿管結石摘出IMG-4728 2 (1)
③尿管縫合IMG-4729 4 (1)
*後腹膜の縫合に訂正いたします。
現在は腎不全も改善して元気に過ごしています。
病期が遅い場合は助からない場合もありますが、改善する努力をすれば、生きられる可能性が十分ある腎不全です。
ただ、知っていただきたいのは、腎不全は血液検査だけでは、原因を判断できず、適切な治療ができない病気だということです。
次回、腎性腎不全を紹介いたします。